メタリカには珍しく政治的な話題をガッツリ振られたインタビュー。管理人拙訳にてご紹介。

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−ニューアルバムを聴くたびに、この世の中に流行っているものと同じ気持ちで聴くことができませんでした。メタリカのエネルギーの多くは敵対的です。バンドの音楽が世に流布しているものを一新したように感じますか?

それは難しいな。最も端的にメタリカがやってることを噛み砕いて言うなら、クソ最高なロックソングを書く、少なくとも書こうとしているってことだね。そういうことを超えて、具体的な社会的・政治的関連のこととなると、俺は気まずくなる。俺たちは説教臭いバンドじゃないし、楽曲を出す前に誰かのために何の解釈もしないように努めているんだ。キミが俺たちの音楽を聴く時は、キミのニーズに合っているべきであって、俺たちのニーズじゃない。


−リスナーがポール・ライアン(訳注:医療保険制度改革(オバマケア)廃止法案に署名した共和党議員)だったとしても?あなた方は手ごろな料金での医療に関する慈善活動をしてきた一方、彼は高齢者医療制度を骨抜きにするよう最善を尽くしてきました。彼もまたメタリカのファンです。そういったことをあなたのなかで折り合いをつけるのは難しいのではないですか?

俺は『Some Kind Of Monster』を生き抜いてきたから、分けて考えるのはかなり得意だよ。しかも俺は座って「あなた方の楽曲を囚人への拷問に使用した米軍についてどう思いますか?」なんて質問に答えなくっちゃならなかったんだ。つまり、そういうことは俺を身もだえさせるとはいえ、マスターテープをFedExの人に手渡して、楽曲が世界に出て行ったら、なるようになるのを放っておかなきゃならない。人が気に入っていようがいまいが、それに対処する方法を見つけるだけなんだよ。だからもしポール・ライアンがメタリカのことを好きなら、ハレルヤ!問題ない。


−ジェイムズ・ヘットフィールドは自分のことを政治的にはやや保守的だと言っていて、選挙前にあなたはドナルド・トランプが大統領に選ばれたら、出身地のデンマークに帰るかもしれないと冗談で言っていましたが、あなたとジェイムズは政治的な議論をするのですか?

誓って言うけど、俺はこの地球上のほとんどのことについてジェイムズ・ヘットフィールドと話した。でもこれまでアイツとわざわざ政治的な会話をしたことはないと思う。俺たちは35年一緒に過ごしてきた。同じ部屋に一緒にいたら、政治の話に会話が向いたこともあったろうけど、ジェイムズと俺が同じ部屋で膝突き合わせて、手ごろな料金での医療制度みたいなことについて俺たちの意見を討論したかって?そんなことはないよ。

−35年間も誰かと一緒に働いて、政治について一切話さないというのは奇妙ではありませんか?

理解しなきゃいけないのは、メタリカが4つの異なる場所から、今いるところからずいぶん違う道をたどってきた4人で構成されているってこと。俺たちを結び付けているのは、俺たちがやっている、4人全員が自分は何なのか理解しようとアウトサイダーのように感じていた音楽への愛なんだ。文化や政治的な何かについて疑問に思っていたから一緒になったんじゃない。俺たちは全員、自分の拠り所を少しばかり失って自分たちよりも大きな何かに属している感覚を得ようとして一緒になったんだ。俺はキミと一晩中、政治について座って話すこともできるけど、インタビューでそんなことをする必要はないと思ってる。メタリカは共同体だけど、俺たちはバンドで「OK、俺たちの世界の共通認識は何だろう?」なんて膝突き合わせて話すなんてしたことがないよ。

−それでは「あなた」の最近の世界の見方はどうでしょう?

俺は社会民主主義のなかで育った。「私」って言葉より「我々」って言葉の方がポピュラーな国で手ごろな料金の医療制度のなかで育った。だからまじめな話、このことについては自分の意見を持っている。だけどそんなことを屋根の上から叫ぶ必要はない。おそらくいつかはそうするかもしれないし、そうしないことが難しいなんてこともあるだろう。俺は真実や事実が陳腐化してしまって、自分たちが好ましいと思わないものを見るとそいつらが「あれはメディアが作ったんだ」なんて言っているのには唖然としているよ。でも個人の生活のなかでこのことについてはたくさん叫び声をあげているね。

−あなたはアートコレクターです。これは単純に比較できない話かもしれませんが、我々の芸術評論家、ジェリー・サルトはトランプが大統領になることがいかにしてアーティストに刺激を与えているかを著しています。あなたのバンドは全米No.1のアルバムがあり、おそらくツアーに出て毎晩何万人もの人に向けてライヴを行うことでしょう。もっと広い世界にうなづく責任を感じていますか?それとも、あなたの持っているプラットホームの大きさであっても、政治状況に対処するという考えは、メタリカが心地よく感じるものではないとみなすのは正しいでしょうか?あなた方は80年代の終わりには、(訳注:法の下の平等を象徴する)レディ・ジャスティスの像がショーのクライマックスで崩れ落ちるというツアーを行っていました。そうなると、何らかの政治的声明を出すことは、バンドにとってあながち柄にもないというわけでもないと思うのですが。

俺は今トロントのスカイラインを観ている。先週はドイツ、フランス、デンマーク、イギリスにいた。数週間前にはコロンビア、エクアドル、コスタリカ、グアテマラだ。どこへ行っても、この手のことについてはたくさん訊かれるね。間違いなくアーティストはいつでも行く場所で持てる限りの力でベストを尽くすのが重要なんだ。音楽は人とある意味でつながる時がある。惑星が一列に並ぶか、並んでいないかのごとくね。アートは人が必要とする機能を提供する。だから俺たちがアメリカでツアーをする時、来年5月から始めようと思っているけど、俺たちにとってはステージ上に全てを残しておくだけの問題だ。俺たちはキミたちを癒すためにここにいるんじゃない。そんな(政治的な)ことを言うのは俺にとってお高くとまっているようなんだ。バンドがそういう方向に行くときは思い上がっていると俺は思う。

−すみません、政治的なことをくどくど言うつもりはなかったんですが。

そうだね。俺は実際この手の話をするのを楽しんでいるよ。


−それでは、ちょうどあなたが言っていたことについて。そのようなミュージシャンも一方でいるわけです。例えば、ブルース・スプリングスティーンは明白な政治的な立場をとっていますし、ドナルド・トランプをマヌケと呼んでいます。そのようなアーティストは一線を越えていると思いますか?

ブルース・スプリングスティーンがそう感じたら、彼はそう言うべきだよ。俺は彼がそうするのを支持する。コトは、俺がアメリカ市民じゃないってことなんだ。俺はここ(アメリカ)で税金を払っているけど、投票はできない。だから俺がこの国の政治についてコメントすることは奇妙なものがあるね。ブルース・スプリングスティーンには愛と敬意しかないよ。俺は彼の本(自伝)を数週間前に読み終えたところなんだ。彼がやりたいことをすべきとかすべきじゃないとか俺が言うべきことじゃないけど。

−あなたがファンであるブルース・スプリングスティーンそしてU2は、その時その時で自身の役割が何であるかを考え、その瞬間に対処する責任を感じていると私はかなり確信しています。一方、楽しい時間を過ごし、良いショーを提供し、大金を稼ぐために存在するローリング・ストーンズのようなバンドもいます。2016年のメタリカはどうでしょうか?何かそれ以上の目的があるのでしょうか?

U2は俺が最も尊敬しているバンドだし、バンドを続けたいと最も触発されるバンドなんだ。でも音楽が癒しであると言うことと俺たちが癒していると言うことには違いがある。俺は音楽が癒しではない、あるいは癒されるべきじゃないと言っているんじゃないんだ。1人の人間として「メタリカは分裂しているアメリカにとって困難な時期にツアーで廻ろうとしている。これが俺たちの意見だ。」みたいなことを言うのは、俺にとっては難しいと言っているだけなんだよ。俺は他の3人と一緒にバンドをやっている。スティングやニール・ヤングやブルース・スプリングスティーンなら、自分自身のことを話すだろう。U2を偉大なものにしているのは、12歳からダブリンの同じ地域でお互いに知り合っていた4人だからなんだ。彼らは全員、同じ石から彫り出されたようなもんだよ。メタリカの状況とは違う。メタリカの目的は何だって?音楽を演奏して、音楽を通じてアイデンティティー感と所属感を与えるってことだね。

(後略)

Vulture(2016-12-02)

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