更新ご無沙汰しています。久々の更新はこの話題から。カーク・ハメットがFearFestEvilのサイトに併設している主にホラー映画について書いている自身のブログのなかで、先ごろ亡くなったデヴィッド・ボウイとの思い出について綴っています。管理人拙訳にてご紹介。

偉大なアーティストへの感謝

デヴィッド・ボウイの死は本当に残念だ。彼がとても大きな影響を俺に与えてくれたことを認めざる得ない。自分に重大な影響を与えたと言える一握りのアルバムを買ってきたが、そのひとつは1976年に出た『Changesonebowie』だった。

Changesonebowie

初めて「Fame」をラジオで聴いたとき、これまで他にないもののように聴こえた。「Golden Years」と「Fame」という2つの全く違った曲があった。俺はAMラジオで育ってきたんだ。そこでは当時の輝かしいモータウン、ストーンズ、ビートルズ、そしてベイエリアのファンクといったものが流れていて、60年代後半から70年代初頭までサンフランシスコでそんなものを聴くことは本当に贅沢なことだったんだ。ボウイはそういったものと全然違った。「Fame」を聴いたら、『Changesonebowie』を手に入れなきゃってなったのさ。

その当時、新しいホラー映画、SF映画について書かれた雑誌もチェックしていたんだけど、ボウイは『地球に落ちて来た男(原題:The Man Who Fell to Earth)』っていう映画に出ていて、SFファンとして、そのタイトルがレイ・ブラッドベリとかアイザック・アシモフ(訳注:いずれもSF小説の大家)とかから来ているんだと思った。ストーリーはレイ・ブラッドベリの『火星年代記(原題:The Martian Chronicles)』に基づいたものだった。俺はSFにハマっていったね!「わぉこいつは面白そうだぞ」って思ったんだ。あれを観たときは、ちょっと頭が混乱して、困惑した。あの映画が、俺の青臭い脳みそにとっては少し洗練しすぎていたのかもしれないなんて思ったのを覚えているよ!でも同時にあのイメージは深く記憶に刻まれた。異星人としてのボウイのイメージは、まさしく俺が彼を別の次元か他の世界からやってきた完全に違う何かとして見ていたそのものだった。

あの映画は、外国人恐怖症みたいな他の文化に順応できないことに触れていた。彼の故郷の惑星が死にかけていたから、気候変動にも触れていたんだ。あの映画については、何年もたくさんのことを考えてきたよ。自分がどこから来て、今どこにいて、これからどこに向かうのかって問題に対処できないってこととかね。大人として、若いときには出来なかった方法であの映画を解釈する術をみつけた。俺たちはあそこに自分たちをみつけるだろうし、振り返ってみるとボウイはいつもあの映画のなかで創造的な自分でいられると思ったのだろうか?とか考えてしまうね。たぶん、それこそが彼がいつも心を打ち、いつも変化しているように見えた理由なんだ。俺が思うに、あれは彼の頭の中からなかなか消えない疑問が同じようにあったのかもしれない。彼の動機を理解したいし、彼がどのようにしてあれだけ多くの人たちに影響を与えるような素晴らしいアートを作ったのか知りたいよ。俺は彼に共感できるところを見つけたし、彼は俺たちの多くに共感できるところを見つけた。まるでボウイが彼の音楽で俺たち自身から俺たちを救い出すためにそこにいるかのように。まぁ言ってみれば、彼の共感出来る範囲が普通の人類よりもすごかったってことだね。

俺は彼に会ったことがあるんだ。

俺はこの話を他所でしないようにしてきたんだけど、今回がふさわしい時期だと感じる。その話を始める前に言わせてほしいのは、ボウイの最期のアルバム『Blackstar』は燦然と輝く素晴らしい最後のメッセージだと思うってことだ。

Blackstar_album_cover

彼は俺たちみんなを何とか招こうとしていた。最期の仕事の欠くことのできないパートとして、その人の死そのものが創造的に含まれているというのは初めてなんじゃないかと思うよ。信じられないほど素晴らしいし、完全にぶっ飛んだね。彼がやったように芸術的なものを残していきたいって思う。彼はいつも信じられないほど寛大で感動するよ。とても率直でオープンで誠実さに満ちていた。こういった気持ちは、「Madly In Anger」ワールドツアーのあいだ、カンザスシティでの一夜で立証されたんだ。ジョー・サトリアーニ、ヴェルヴェット・リヴォルヴァー、そしてデヴィッド・ボウイがみんな同じホテルに宿泊していたんだ。俺たちみんな同じエリアでショーを行っていたからね。

俺たちはホテルに転がり込んで寝ちまって、起きたらジムに向かった。そこでヴェルヴェット・リヴォルヴァーやジョー・サトリアーニに鉢合わせてから、エアロバイクに乗って30分ほど漕いでいた。自分の後ろで活発に動き回る誰かがいたことに気付いたけど、後ろを振り返って観たくはなかった。この街でライヴをしている他のみんながいたもんだから、ボウイがこのホテルにいるかもしれないと思ったんだ。俺の周辺視野の外で大柄な男がトレーニングしているように見えた。でも俺はそれが誰かを確かめなかったんだ。有名人の野次馬なんかになりたくなかったからね。でもあれは彼だったんじゃないかって思っていた。その後、その日は一日オフだったから、ロブ(ロバート・トゥルージロ)がデヴィッド・ボウイがライヴやってるのを観に行こうぜって言ったんだ。だから早めの夕食をとった。俺たちが行ったレストランは通りに近くてタクシーを拾うのに申し分なかったよ。

俺たちはライヴ会場に着くと、以前俺たちのツアーマネージャーをやっていたイアン・ジェフリーがそのツアーで働いていたんだ。俺たちを捕まえると、表向きは俺たちはショーを見に来ていたわけだからイアンに「やぁ」と言ったんだ。彼は俺たちを連れ出して、本当にクールなことだったんだが、俺がマジで好きなギタリストのアール・スリックに会わせてくれたんだ。彼は俺が期待していた曲を全部、数曲はかいつまんで演奏してくれたよ。ロブと俺はただただ素晴らしすぎる時間を過ごした。それから、イアンに挨拶に行った。デヴィッドに会えるかもしれないなんて期待はしていなかったよ。彼はとても人目につきたがらないし、ショーの後はおとなしく引っ込んでるって聞いていたからね。彼を責めるつもりもない。それが俺たちのすべきことだ。俺たちは立ち去ろうとすると、イアンが「ちょっと待ってくれ、デヴィッドが挨拶したがってるから」って言うんだ。ステージが終わって15分しか経っていないってのに。俺たちなら(ステージを終えて)着替えてビタミンを摂るのに普通、少なくとも45分はかかるよ!スウェットとTシャツを着て彼はやってきて、こう言ったんだ。「やぁカーク、調子はどう?やぁロブ!」信じられなかったね!それからすっかりファンの少年みたいになっちゃって、ずっとインスピレーションになっていましただの、ベラベラ喋っていたよ。彼は俺たちのことを長いこと知っていて、俺たちの音楽を気に入ってて、そのまま続けてほしいって言ってくれたんだ!ロブと俺は歓喜に満ちていたね。それから俺たちは45分後に立ち去ろうとするまで、イアンと俺たちが知っている他の数人のクルーと話していた。(俺のツアーアシスタントの)トム・ロブにタクシーを拾ってもらうよう頼んで、俺たちはバックステージから立ち去った。ゲートを出る前に、突然、俺はなんて考えが甘いんだって思ったよ!8000人近くの人たちが同時にロックコンサート会場の駐車場から帰ろうとしている時にタクシーを捕まえようとするなんてさ。俺はロブを見て言ったよ。「あぁあ、俺たちバカだな!」俺はイライラして、トムに俺たちのツアーマネージャーに電話してもらって、なんとか外に出してもらうようにお願いするように言ったんだ。すっかりうろたえて自分自身にガッカリして、縁石に座って頭を抱えて地面をみつめていたのを覚えているよ。

俺はこのツアーバスがバックステージ・ゲートからスルスル出ていくのを見ちゃいなかった。でも突然、俺の真正面に止まってドアが開いたんだ。出てきたのはデヴィッド・ボウイのツアーマネージャーだった。彼は「我々と同じホテルに泊まっているんでしょ?乗った方がいいよ!デヴィッドから私に、もしよかったら乗ってみないか聞いてほしいって言われたんだ。」俺はすぐに「もちろん」と答えたよ。言うなれば、映画『ウェインズ・ワールド』の奴らみたいな気分だった。バスのステップを上がって、ラウンジに入ったら、そこにはニッコリ笑ったデヴィッドがいたんだ。「座って座って」って言ってね。ロブと俺は座ったら、またファンの少年みたいになって、細かなことは覚えていないんだけど、音楽のことだとか、彼がザ・ダンディ・ウォーホルズが好きなことだとかを話したんだ。自分が彼に謝ったのも覚えている。「ごめんよ、デヴィッド。「Leper Messiah」ってタイトルを盗んじゃって。」と言ったら、彼は笑ってたね。クリフと俺は、85年の『Ride The Lightning』のアメリカツアー中に毎日のように『ジギー・スターダスト(原題:The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)』を聴いていたんだ。そう、だから、あのアルバムのタイトルトラックから(歌詞に登場する「Leper Messiah」の)タイトルを拝借したんだ。『ジギー・スターダスト』を聴いて、人生で遭遇したさまざまな疑問に対する答えを探していた。「ロックン・ロールの自殺者(原題:Rock'N'Roll Suicide)」や「君の意思のままに(原題:Hang Onto Yourself)」みたいな曲は俺に大きな影響を与えたんだ。

ziggystardust

バスに乗って俺たちがずっと話している間、俺は彼がとても気さくな人だったんで驚いたよ。よく笑っていたし、目も眩むようなおどけたユーモアのセンスもあったし、とても落ち着いた人だった。彼の公に出ている写真とか何かから、カネと権力を持ったヤバいヤツって思うかもしれないけど、個人的に会ってみたら完全に真逆だった。俺の持っていた印象はまるっきり的外れだった。ホテルに着いてしまうと、ちょっと悲しくなったね。生涯で最高のバス乗車の時間が終わろうとしているんだから。俺たちは彼にお礼を言ってバスを降りた。俺たちはホテルのエレベーターに乗るとロブと互いに顔を見合わせて言ったよ。「あれは現実だったのか?」ってね。奇妙だけど、美しく、まったく思いがけない経験だったよ。

そう…これがデヴィッドとの素晴らしい思い出だ。

話は変わるけど、(デヴィッド・ボウイが出演している)『ザ・ハンガー(原題:The Hunger)』は素晴らしい吸血鬼映画だと言っておきたい。あの映画の吸血行為は、ハッキリ描かれていないけど、時間の広がりを超えた関係性について描かれている。そして若いクラブキッズの吸血鬼から前時代の老人になるデヴィッド・ボウイの変貌ぶりにはぶっ飛んだよ。サウンドトラックも素晴らしい。俺のお気に入りで、チェックすべきオススメだよ。

the_hunger

デヴィッド・ボウイを地上に生んでくれて神に感謝だ。そして彼が与えてくれたことを体験することができて神に感謝だ。

Kirk Hammett Blog(2016-01-26)

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