メタリカがSNSにて4thアルバム『...And Justice For All』のBOXセットを工場で梱包している映像を公開しました。「#comingsoon」というタグ付きのため、リリースも近いものと思われます。



これに先がけて、RollingStone誌で『...And Justice For All』のいわゆる「ベース問題」についてまとまった記事が掲載されていたので拙訳してみました。結局、どういう音になっているのか気になる所です。
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元メタリカのベーシスト、ジェイソン・ニューステッドは、グループと共にした初のフルレングスアルバム『...And Justice All』が出た時にどう感じたか語った。「それはそれは悪い噂のなかにいた。最終ミックスを聴いてとてもガッカリしたよ。俺は基本的に遮断したよ、みんなのいう戯言のようなものはね。」

30周年を迎えるアルバムはメタリカの最高傑作の1つだ。収録曲は長く、政治的委任について含みを持たせた声明(タイトルトラックや「Eye of the Beholder」)、戦争の残虐行為(シングル「One」)、そして苦しい家庭生活とのマズい関係(「Dyers Eve」「Harvester of Sorrow」)を歌う。

楽曲は特に複雑で、巧みに構成された動きと、通常のロックンロールで頭を振るようなビートの枠外の難しい拍子は、カリフォルニア出身の20代半ばの男たちにとってかなりの成果だ。リリースから楽曲の多くはセットリストの定番となり、8回のプラチナム認定を受け、バンドにとって2番目の売れ行きをあげたレコードとなっている。RollingStone誌のメタルアルバムのランキングでも高く評価されており、「One」にいたっては胸を高鳴らすマシンガンのようなドラムとトラウマを帯びた歌詞で、コーンからアコースティック・フラメンコ・デュオのロドリゴ・イ・ガブリエラにまでカヴァーされた。メタリカを一気にメインストリームに押し上げたレコードだが、過去30年間引きずっている欠点がある。それは実質ベースギターがないということだ。

「俺はあのレコードをどれだけ悲しんで、いまだにどれだけ対処しているのか説明なんてできないよ」とニューステッドは語っていた。

しかし、誰に聞いても、彼がアルバムのために録音したものは素晴らしいものだった。完成したLPでは聴こえなかったが。ジャスティスアルバムの共同プロデューサーであるフレミング・ラスムッセンはRollingStone誌で2016年にこう語っている。「ジェイソンは最高のベーシストの1人だよ。ジェイソンとアシスタント・エンジニアのトビー・ライトを含めて、私はおそらく世界で唯一の人間なんだ。ベーストラックがのった『...And Justice For All』を聴いた者としてね。あれはメチャクチャ素晴らしかった。」

では一体何が起きたのか?

偶像化されているベーシスト、クリフ・バートンがバス事故で1986年9月に亡くなった後、メタリカはすぐに前に押し進んだ。ドラマーのラーズ・ウルリッヒはこう語った。「俺たちができる最善のことは続けることだと決めたんだ。事故後に1、2週間はクリフを弔うために使った。その後はそういう(弔う)ことは5分もなかった。なぜなら俺たちは減速したら、虚無感に陥ったり、自分自身を引き上げることすらできないほど深みにハマってしまうことを恐れていたからね。」

彼らはバートンの葬式の一週間後に、オーディションをやることを提案するために、友人であり、メタルブレードレコードの創設者、ブライアン・スレイゲルに連絡をした。彼らは最終的に、スレイゲルの推薦したなかの1人、ニューステッドに最も感銘を受けた。彼は、フェニックスにいたメタルバンド、フロットサム・アンド・ジェットサムでプレイしていて、メタリカに魅了されて彼らの楽曲「Fade To Black」と同名の曲を書いていた。

ウルリッヒはこう回想する。「ジェイソンはとても有用なポジティヴなエネルギーを持っていて、まるで火の玉のようだった。加入してからとても献身的で準備万端だったしね。正しい立ち居振る舞いで、ケミストリーもあったし、性格や楽器へのアプローチはとてもユニークだった。彼はクリフとは180度以上違ったかもしれない。だから「クリフ・ジュニア」みたいな代わりをしていたのとは違うんだ。」

『Master of Puppets』のツアーを終えて、ギタリストのカーク・ハメットは、ツアーで予想だにしなかった音楽的にハッキリとした感覚に目覚めたことを回想した。「ジェイソンは困難に対してうまく対処していたよ。俺たちは大きく成長した。次のツアーまでに俺たちはもう少し成熟する。集中していたし、演奏もうまくいっていた。そしてもっとうまく弾きたいって願望のなかで(1988年の)『...And Justice For All』ができたってわけ。」

しかし彼らはスタジオに入る前に、モヤモヤを振り払おうといくつかのカヴァー曲を録音することに決めた。それが1987年の『The $5.98 E.P.: Garage Days Re-Revisited』となった。彼らは(メタリカとして)初めてのレコーディングとなるニューステッドを「Master J. Newkid」とクレジットして、ベースギターが関わらないブレイクがあるダイアモンド・ヘッドの「Helpless」、低い音でうごめくようなホロコーストの「The Small Hours」といった彼が目立たないような曲を選んだ。彼らはセルフプロデュース(クレジットには「not very produced」と記載)して、『Master of Puppets』の共同プロデューサー、ラスムッセンと共に『...And Justice For All』のレコーディングを行う数ヵ月前にあたる1987年の夏にリリースしたのだ。

ニューステッドが唯一作曲者としてクレジットされた曲は「Blackened」だけだった。Guitar World誌のインタビューで彼はこう回想する。「俺が(メインリフとなる)ベースを書いたんだ。俺はこのリフをかき鳴らしていた。それから(ジェイムズ・ヘットフィールドが)一緒に弾き始めて、あの時まさにあの曲ができ始めたんだ…。彼が「おい、あのリフはアルバムの始めを飾るのに十分良いリフじゃないか。あれには勝ったと感じさせるものがあった。俺は彼をすごく尊敬しているし、今もそうだからね。」その他はヘットフィールドとウルリッヒとハメットによる曲とバートンが残した音楽との混合でインスト曲に近い「To Live Is To Die」だ。そんなわけでベース音が、刻むようなリフとパンチの効いたリズムによって発せられるアルバムだった。

ニューステッドは、アルバムの重低音の欠如を、彼の演奏スタイルと一般的なバカ正直さで形作った。彼はエンジニアと共にフロットサム・アンド・ジェットサムの時と同じ機材を使って自分のベースを録音し、その後は二度と聴くことなく家に帰った。『...And Justice For All』のタブ譜で音符の表記をみれば、ヘットフィールドが各曲で演奏しているものに非常によく似ている。「フロットサムにいる時、俺はベースパートの弾き方についてまだわかっていなかった。ギターのように速くベースを弾くことはわかっていたけど、基本的に音の壁のようにみんな同じように弾いていたんだ。だから同じ数だけ、つまり俺のベースとジェイムズのギターが同じ数だけ(音を刻んだゆえに)かち合うことになってしまったんだ。もし俺が今の自分が知っていることを分かっていたら、違ったことになっていただろうね。(中略)当時あれにはムカついていたけど、それも大昔のこと。それ以来、俺が作ってきたレコードには至るところに醜いベースパートがあるのさ。」

バンドのギタリストは、特にジャスティスの後、1991年に「Sad But True」「Enter Sandman」といったヒット曲を含むブラックアルバムを出した後で、長年に渡るインタビューのなかでその話を繰り返している。彼らはあのアルバムを、プロデューサーのボブ・ロックと共に作った時、ウルリッヒのイヤーモニターに彼(ジェイソン)の演奏を送って、ニューステッドが呼ぶところの「実際のリズムセクション」を創り出すことができた。「今回は大きなドラムとギターの下で俺のサウンドを支えるプロデューサーを迎え入れることが出来たのは幸運だった」とニューステッドは1991年に語っている。

2008年にヘットフィールドはこう説明している。「ベースが(ジャスティスアルバムで)不明瞭なのは2つの理由がある。まず、ジェイソンが俺のリズムギターを(同じように弾くことで)倍増させようとしていたから、ギターがどこで始まってベースがどこで終わってるのかわかりにくかった。同様にジャスティスでの俺のトーンは低音と高音が拾われていて、中音域がほとんどなかった。俺のギターサウンドが低い音域を食っちまった。ジェイソンと俺はいつも同じスペースをミックスでぶつけ合っていたんだ。」1991年、フロントマンはプロデューサーのボブ・ロックをブラックアルバムにおけるリズムセクションを整理したと評価している。「ボブは本当にギターとベースが一緒に働くようにローエンドを編成して引き出すのを助けてくれた。」と彼は言う。同じインタビューのなかで、ヘットフィールドはメタリカのプロダクションに関するウルリッヒのインプットについてこんな冗談を飛ばしている。「彼(ラーズ)はギターサウンドにちょっかいを出したんじゃない、ベースギターにちょっかいを出したのさ」

ヘットフィールドもウルリッヒもジャスティスのミックス過程のあいだに実際何が起きたのかは確かにしていないが、異なるソースからの物語は全てにおいてかなり一貫している。2015年のインタビューで、ミキシング・エンジニアのスティーヴ・トンプソンは、回想したことについて熱く説明をしている。彼のゴールは「『Master of Puppets』を吹き飛ばすようなもの」だった。しかしメンバーたちが「ベース無しでもっとガレージ感のあるサウンド」を望んでいることに気づいた。彼はまずウリリッヒのドラムのEQ(パラメーターのイコライザー)を彼の耳が喜ぶように調整し、ヘットフィールドもそれに賛同した。しかしウルリッヒはトンプソンの嫌うような形でさらに変更を加えた。それからこのエンジニアはドラマーがベースに注意を向けたと語る。

「彼は「ベースギターはどうだい?」とこうさ。私は「あぁすごいパートだよ。彼はよくやっている。」と答えた。すると彼はこう言うんだ。「ミキシングで出来る限り、聴こえないくらいベースを小さくして欲しいんだ。」私は言ったよ、「冗談だろ?」って。彼は「いいや、小さくしてくれ」と言っていた。私があのレベルまで音を下げると彼は「もう5db落としてみようか。」と言ったんだ。私は振り返って、ヘットフィールドを見て言ったんだ。「彼は正気かい?」あれにはぶっ飛んだね。」

バンド加入時にバンドがジェイソンのことを無慈悲に悩ませていたというニューステッドの発言に基づき、2008年にアルバムのベース音を下げたのかという質問に対して、ウルリッヒは意図的ではないと語っている。「ジャスティスは最初から最後まで「ジェイムズとラーズのショー」だった。でも「コイツむかつくからベースを消そう」なんてならなかったよ。「俺たちがミキシングしている。だから自分たちの背中を叩いてリズムギターとドラムを上げてみよう」って方だね。でも基本的にはベースが消えるまで他の全てのことを変え続けていたんだ。」

2016年にはラスムッセンがこう語っている。「彼らの判断だ。それは確かだ。ベース音を下げると言ったのはラーズとジェイムズだった。私は彼らに訊ねたから、その事実を知っている。」

ブラックアルバムではそれが変わった。1996年にヘットフィールドがグループの制作プロセスについてこう語っている。「過去にはラーズと俺がみんなに足かせをしていた。今回はスタジオに入ってジェイソンがスラップベースのパートをレコーディングしているのを聴いたら、俺たちは「何だいそりゃ?OK、10数えて曲のなかに入れてみよう」ってなる…俺はジェイソンが自分が書いたものの多くがレコードに入らないことにどれだけ不満を持っていたのか何年もわかってはいたんだ。(中略)彼はみんなが聴くことを望んでいる。」

創造的なインプットをめぐって、ニューステッドはサイドプロジェクトのエコーブレインでアルバムをリリースしてヘットフィールドと衝突した時、つまり2001年まではバンドに留まっていた。この騒動はドキュメンタリー『Some Kind Of Monster』でも取り上げられ、最終的にニューステッドは、2003年の『St.Anger』のレコーディングでスタジオ入りしたボブ・ロックに置き換えられ、その後にオジー・オズボーンのベーシスト、ロバート・トゥルージロによって永続的に置き換えられた。後知恵にはなるが、彼はジャスティスがなぜああなったのか新しい視点を得た。

「心理的にも無意識的にも潜在的にも、彼らは「ジェイソンはクリフのようにプレイしない。奏法は同じじゃない。彼はジェイムズのそれのようにピックでチャンカチャンカとスピードメタルを弾いている。素晴らしい音楽的な背景ではない。同じにはならないだろうしチャガチャガと聞こえるところまで戻ろう」というところがあったに違いない。また、1988年に名声を味わい始めた…個人の自我はどんどん膨らんでいった。」

ベースの欠如は過去30年間に渡り、メタリカのファンとの係争した点であった。録音ソフトがこれまでより安価になっていたことで、自分たちの手によって『...And Justice For All』からジェイソンの貢献がより聴こえる形でリミックスを試みるファンも現れた。最初に登場したのは2015年の『...And Justice for Jason』だ。YouTubeユーザー、「Josh10177」によってアップロードされた。どう作られたのかは説明がなかったが、アルバムの音からイコライザーを使っている。他のリミックスはもっと独創的だ。ひとつは「James Mason」という名のユーザーが2017年にアップロードしたものは、楽器の音を分離させ、アナログレコードをサンプリングしてベースの音を強くしている。ハッキリとそう言っているわけではないが、いくつかの曲のベーストラックは『Guitar Hero: Metallica』のミックスから分離させたベーストラックを使用している可能性がある(クリフ・バートンが弾いたかのようにレコーディングされたと思われるリミックスもある)。





2013年にニューステッドはこう語っている。「ミシガン州ポンティアックで、この子がやってきて私に『...And Justice For Jason』をくれたんだ。彼はジャスティスのベーストラックをリミックスしていた。何年もの間、そういう話は聞いていたが、本当に注意を払ってはいなかった。彼が「ねぇ、これはあなたのためのものです。こうなるべきだったんです。」ときたんで俺は「OK、出たものがあるべき姿であり、世界で記録を残したものなんだ。でもクールだね。ベースはあるのかい?素晴らしいよ、ありがとう。感謝するよ。」と言ったんだ。」

ヘットフィールドとウルリッヒは出たものが出すべき音であり、だからそのままであるべきというニューステッドの主張に同意する。過去数年のあいだ、メタリカは過去のアルバムをリマスタリングして再リリースした。そのうちの最新のものである『Master of Puppets』は昨年発売された。ラスムッセンはファンは「代替バージョン」を期待すべきだが、ジャスティスのリミックスバージョンは期待すべきでないと語っている。

ヘットフィールドはこう語る。「こういったレコードは人生のある時間の産物だし、歴史のスナップショットであり、俺たちの物語の一部なんだ。OK、だから『...And Justice For All』はローエンドを使ったし、『St.Anger』はスネアドラムを少ししか使用しなかったが、それらのレコードは歴史の一部になっている。」

トンプソンもバンドがリミックスする「欲はない」ことを確認している。2018年にはこう語っている。「彼らはそのままを維持したいんだ。リマスタリングするかもしれないし、そういうこともあるかもしれないが、できるマスタリングはあまりにも多い。真実を伝えるなら、私はそれらのオリジナルのマルチトラックが確保されているかわからないんだ。」

彼らがそのままを維持したいとする事実にも関わらず、バンドは進んでそうしたジャスティスアルバムの最終的な結果に後悔を表明している。ハメットはこう語った。「俺たちは『...And Justice For All』を良くするためにレコーディングできたらなと思う。当時は面白いコンセプトのように聴こえたんだ。でもあのアルバムは今や俺にとって良くは聴こえない。曲は大好きだけど、その音はファンキーだ。悪い意味でのファンキーであって、グルーヴィーなファンキーじゃない。」

ニューステッドはこう語る。「俺たちは全てのシリンダーを稼働させて、あんなことが起きてしまった。俺はそれにただ突き進んで巻き込まれていっただけだ。(中略)もし今、彼らにそのことについて訊ねたら、今は彼らには時間があり、父親でもある。知っての通り、人生は成熟し、彼らはそうするだろう。キミの眼前で、あれは正しかったと言うだろうね。」

2009年、トンプソンはロックの殿堂入りの式典でラーズの隣に座って、ニューステッドの言ったシナリオに似た体験をしていた。彼にとって一周して元に戻ったような体験だった。回想するところによるとこうだ。「「ねぇ、ジャスティスのベース、あれは一体何が起きたんだい?」ラーズは実際にそう俺に尋ねてきたんだ。私はすぐそこで彼をぶん殴ってやりたかったよ。残念だった。私は、あのベースのためにコテンパンに叩かれた一人だったからね。」

RollingStone(2018-08-25)


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